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貴殿と小生

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保育園のお掃除パートナーは、幼い頃に戦争を経験した年配の方だった。

某大手重工の偉い人で激動の時代を過ごしたのち、余暇で働いていた。

なので気難しくはあるが頭の良い人で、決して自慢話はせず、孫の年ほど離れているけど会話していて普通に笑ってしまうくらいユーモアのある人だった。


「どこのうまれかね」と聞くので「長崎です」と言うと、その方は佐賀の人であった。

九州の人というのは同じく九州だとなぜか無条件で受け入れてくれる、ような気がする。

うまれたってだけなんだけど。


「じゃあ、いつか一杯やらないとな。夕涼みにお付き合いください。」

夕涼みって、粋ですな。


メールではいつも、自分のことを「小生」。僕のことは「貴殿」と書いてあり、フィクションではなく本物の「小生」を使う人だった。


ショウセイさんはいろんな話をしてくれた。もちろん戦争の話も。

お兄さんは特攻隊員で帰らぬ人になり、地元では英雄になったそうだが

「馬鹿げてる、って幼いながらに思ったね。」

とショウセイさんは言った。

なにも言えなかったが、なにも間違っていないと思った。




園庭の、登り棒やうんていを眺めて「今はもうできないかも」なんて話していたら、突然ショウセイさんは登り棒を登りはじめた。

いやあぶないあぶない…でもああ、

写真を撮りたい。と思った夏の日の午後だった。


忘れ去られていく時代の中で、テキストも映像もフェイクになっていく今、口承がふたたびその価値を取り戻すのだろう。



暑い日が続きますが、お元気でいらっしゃいますでしょうか?

小生は貴殿と出会えてラッキーでした。








 
 
 

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